私たちの住む銀河系の中心には、ブラックホールという天体が存在するとされてきました。
約100年前、アインシュタインが一般相対性理論(general theory of relativity)で予言したブラックホール。この究極の天体を撮影するという試みは2019年に初めて成功しました。それから約3年が経った2022年5月12日、日本の国立天文台などが参加する国際研究グループ、EHT[1]Event Horizon Telescopeは初めて天の川銀河中心のブラックホールの撮影に成功したと報告しました。
今回はそんなブラックホール撮影に関するニュースを紹介します。
英語で読もう世界のニュースシリーズでは、世界のニュースを翻訳機を使わずに読めるように、記事の概要と難しい英語の表現を紹介しています。世界情勢や科学・テクノロジーについて理解を深めながら、英語を学んでいきましょう。
Contents SHOW
概要: 銀河系のブラックホールを初めて撮影- BBC News
ブラックホールとは
ブラックホールは星を構成する物質が、自身の重力に耐え切れずに崩壊した天体のことです。この天体は太陽の数億倍の質量があるため、強力な重力で光さえ引き込んでしまいます。
ブラックホールには次のような特徴があります。
- ブラックホールの質量は降着円盤(accretion disc)と言われるガスの円盤の大きさから決定する。
- 降着円盤ではガスが超高温で励起されプラズマとして存在しており、光速(秒速30万km)に近い速度で移動している。
- リングの特に明るい領域ではガスがこちらに向かって移動することに起因するドップラーブースト(doppler boosted)という現象が起きている。
- ブラックホールの表面は事象の地平線(event horizon)と呼ばれ、その境界より内側は光でさえ時空の曲率(the curvature of spacetime)によって曲げられ脱出できない。そのため光を反射/放出せずブラックホール自体は真っ暗に見える。
いて座Aスターについて
今回撮影された「いて座Aスター(Sagittarius A*)」は、地球から約2万6000光年先の銀河系中心に位置するブラックホールです。2019年に「M87」という銀河中心のブラックホールが撮影されてから、二度目の撮影に成功した事例となります。
この天体は太陽の約400万倍の質量を持ち、降着円盤と呼ばれるガスのリングは直径6000万kmもあります。
参考として、太陽系に最も近い水星の公転軌道は直径約4000万-7000万kmなので、水星の公転軌道と同程度の大きさといえます。
非常に大きな質量を持ちますが、ブラックホールの中では小さく、M87銀河のブラックホールの約1000分の1の大きさです。ちなみにM87銀河のブラックホールは太陽の約65億倍もの質量を持ちます。
撮影方法と背景
地球から2万6000光年も遠くにあるブラックホールを観測するためには特別な撮影方法が必要でした。
そこで研究チームのEHTは超長基線電波干渉法(Very Long Baseline Interferometry)という方法を用いました。
この方法は8つの無線アンテナを組み合わせて実質的に地球サイズの望遠鏡を模倣したものです。これによりマイクロ秒[2]microarcseconds:1/3600度の100万分の1の角度単位の解像度で宇宙を撮影することができるようになりました。
それでも数ペタバイト(数百万ギガバイト)のデータから画像を構築するためには、原子時計、高度なアルゴリズム、膨大な時間をかけたスーパーコンピューティングが必要でした。加えて、M87のブラックホールと比べて「いて座Aスター」は地球から見て速く移動するため、解析までに非常に時間がかかりました。
実は二つのブラックホールとも観測自体は2017年初頭の同時期に行われていました。しかしM87銀河のブラックホールは非常に大きく、5,500万光年もの距離があるため静止しているように見えるため、比較的観測が容易だったということです。
研究の成果
研究者たちは今回得られた新しい画像を用いて、ブラックホールを記述するために用いている理論について議論を行っています。今のところ、測定結果から得られたものはアインシュタインの重力理論や一般相対性理論の方程式と完全に一致しているとのことです。
銀河の中心には超巨大ブラックホールがあると数十年前から予想されてきました。銀河系中心の近くの星を秒速24,000km(時速8,000万km)で加速させる重力源は何なのか、今回の研究報告がはっきりとブラックホールの存在を証明しました。
ちなみに太陽は銀河系を秒速約230kmで移動しているので、ブラックホールが作る重力が如何に強いのかがわかります。
これからのブラックホール研究
今年の8月、新しい宇宙望遠鏡ジェームズウェブ(James Webb)が「いて座Aスター」を観測する予定です。
この望遠鏡はブラックホールや降着円盤を直接観測する性能はありませんが、非常に感度の高い赤外線(infrared)観測装置によって今後のブラックホール研究に新たな能力をもたらすとされています。
天文学者はブラックホール周辺の数百の星のふるまいを詳細に研究することになるでしょう。その領域に星サイズのブラックホールがあるか、また暗黒物質(dark matter)[3]重力とのみ相互作用する物質。光や電磁気と相互作用しないため直接観測できないが集中している証拠がないかどうかも調べる予定です。
Terminology
Picked up 英語表現
To put ~ in context
To put that in context, Mercury, the innermost planet in our Solar System, orbits between roughly 40 million km and 70 million km from the Sun (or between 25 million miles and 45 million miles).
これを踏まえて、太陽系の最も内側にある水星は約4000万km~7000万km(約2500万マイル~4500万マイル)の距離を公転している。
ちょっと一言ではとらえにくいので先に例文をご覧ください。
和訳の表現もあまり正確ではないかもしれません。“context” は「文脈」「前後関係」「状況」などという意味です。
なので“put something in context” で背景にある事情や情報を補足説明する際に用います。文脈によって「背景を説明すると」や「これと関連して」などという意味になります。
個人的には「例えばこんな背景があることを念頭において考えてね」的な意味でとらえています。
more than~: ~を超えて、~より大きく
That object was more than a thousand times bigger at 6.5 billion times the mass of our Sun.
この天体は太陽の65億倍で、(いて座Aスターの)1000倍を超えた質量だった。
“more than~” は「以上」ではなく「~より多い」という意味で使われるようです。例えば10人以上と言いたい場合は“more than 9 people” といいます。反対語は“less than” ですね。
“no less than~” も同じような意味ですが、こちらは明確に「~以上」となります。なので“no more than~” は「~以下」となります。
wriggle room: 解釈や選択肢の余地
It was wriggle room in case some other exotic phenomenon turned out to be the explanation.
他の変わった現象で説明できることが判明したときに備えて、解釈に余裕を持たせておいた。
記事本文中では、ノーベル賞受賞時点ではまだブラックホールだとはっきりとは分かっていなかったので“a supermassive compact object” (超質量の小天体)と名前が濁されたことが書かれています。これに対して“wriggle room” 、つまり解釈の変更の余地や柔軟性を残していたという表現が使われています。
例: “How much wriggle room is left for solving environmental issues?” (環境問題解決にはどれだけの余地が残されているの?)
ちなみにwriggleには「くねくね動いている」という意味もありますが、ほかに意味もスペルも似た“wiggle” という単語があります。どちらも「くねくねする」のような意味がありますが、wiggleのほうが小刻みでwriggleが比較的大きな動作として区別されるようです。実用上は細かすぎるので実際にwriggle roomとwiggle roomの意味は一緒です。
それと“exotic” は「風変わりな」「魅惑的な」という意味で、魅力的だけど特異な性質を述べる際に使います。素粒子物理学の領域ではエキゾチック物質(exotic matter)という物質が注目を集めているようです。
記事の全文は以下のサイトになります。ぜひこのページと照らし合わせながら読んでみましょう。
その他、参考リンク
2019年に報告された、M87銀河のブラックホール初撮影に関する記事やEHTのサイトは、下のリンクからご覧いただけます。また、5月12日に発表された原著論文に直に触れてみたいという方もこちらからアクセスできます。論文は全部で6部構成に渡る大作になっており、本プロジェクトが世界各国が連携した一大プロジェクトであることが伺えます。
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