量子力学のエネルギーの単位【エレクトロンボルト eV】

量子力学では、普段私たちが無視するくらい小さなエネルギーを扱います。例えば、量子の世界の光は約10^{-34}[J]という非常に小さなエネルギーを持ちます。そのような非常に小さいエネルギーに対しては、私たちが普段エネルギーの単位に用いるジュール joule [J]ではなく、エレクトロンボルト electronvolt [eV]という単位を使います。
今回は、小さな世界のエネルギーの単位であるエレクトロンボルトについて紹介します

量子のエネルギー単位

エレクトロンボルト Electronvolt

先ほど書いた通り、量子力学の理論から光[1]より正確には「光子」のエネルギーを計算すると約10^{-34}[J]の値が得られます。こうしたエネルギーのわずかな違いを表すための単位にジュール[J]を使っていたのでは、常に10のべき乗の指数が式に付くので、量子力学の単位として適していません。エレクトロンボルト[eV]ではなくジュール[J]で電子のエネルギーを見るのは、30cm定規で原子の長さを測っているようなものです。

そこで、電子などの小さい物質のエネルギーにはジュールの代わりに、電子1個が1[V]の電圧で加速されたときに電子が得るエネルギーを1とした単位が使われます。その単位のことを「エレクトロンボルト electronvolt」といいます。

ジュール[J]とエレクトロンボルト[eV]はどちらも同じエネルギーの式なので、互いに変換することができます。式を使ってジュール[J]からエレクトロンボルト[eV]への変換を丁寧に表すと、下の式のように書かれます。

\begin{aligned}
E
&=qV \\
&=1.602\times10^{-19}[\text{C}]\times1[\text{V}] \\
&=1.602\times10^{-19}[\text{J}] \\
&=1[\text{eV}]
\end{aligned}

qは電子一つが持つ電気の量を表す記号で、電気素量 elementary chargeといいます。単位はクーロン[C]です。
また、Vは電圧の記号で単位はボルト[V]です。電圧は変数と単位の記号がどちらも”V”で紛らわしいですが、斜体 italic typeが変数で、立体 roman typeが単位を表します。
式の通り、1[eV]は約10^{-19}[J]なので、非常に小さなエネルギーであるとわかります。
なぜエネルギーが電荷\times電圧で書けるのか興味のある人は、次の章にあるE=qVの導出をご覧ください。高校までの電磁気と微積・ナブラ演算子を既知として書いているので、上級的な内容かもしれません。

単位をジュールからエレクトロンボルトに変換する利点を理解してもらうために、例として自由電子という電子のエネルギーを[J]から[eV]に変換してみます。

\begin{aligned}
E
&=2.298\times10^{-25} [\text{J}] \\[3mm]
& =\frac{2.298\times10^{-25}}{1.602\times10^{-19}}[\text{eV}] \\[3mm]
& \approx1.434\times10^{-6}[\text{eV}]
\end{aligned}

式を見てわかるように、いくらか指数が小さくなりました。このように考えている状況に合わせて、わかりやすい数字に変換することが単位変換の大きな長所です。エネルギーをはじめ、単位はあくまで人間が作った「ものさし」なので、有効数字や考えている物理量[2]長さ、質量、時間、エネルギーなどの大きさに適するように、単位の変換は行われます。

自由電子のエネルギーの導出はこちらの記事で具体的に計算しています。

量子 Quantum ってなんだろう?

エレクトロンボルト[eV]がどれほど小さい値かを紹介したところで、今度は1eVに相当する光の波長を求めてみます。量子力学の光のエネルギーは

E=h\nu=\hbar\omega

という式で求められます。hはプランク定数という非常に小さい定数(6.626\times10^{-34}[J\cdots])で、\nu,\omegaはそれぞれ光の振動数 frequency、と角振動数 angular frequencyを表します。

また光速c=2.99792458\times10^{8}と振動数\nuにはこのような関係があります。

\begin{aligned}
c
&=\nu\lambda \quad [\text{m/s}]\\
\nu
&=\frac{c}{\lambda} \quad [\text{1/s}]
\end{aligned}

これらの関係から、光の波長は次のように求められます。

\begin{aligned}
E
& =\frac{hc}{\lambda}\\[5mm]
\lambda
& =\frac{hc}{E} \\[3mm]
& =\frac{6.626\times10^{-34}\times2.998\times10^8}{1.602\times10^{-19}} \\[3mm]
& \approx1.24\times10^{-6}[\text{m}] \\[3mm]
& =1240[\text{nm}]
\end{aligned}

この数値はおよそ近赤外線の波長に相当し、量子力学が見ている規模感や、波長とエネルギーの対応関係を大まかに把握するための基準となる大事な値です。

E=qVの導出

エレクトロンボルト[eV]は電気素量[C]と電圧[V]を掛けて定義されますが、そもそもなぜ”クーロン[C]”と”ボルト[V]”を掛けるとエネルギーの単位になるのでしょうか。
この疑問に対して、この章では一次元のクーロンの法則から出発して解説します。

まず、ある電荷q_2が作る電場(電界)[3]どちらも同じ意味ですが物理学では電場、工学では電界といわれる傾向にありますE_2によって、q_1に生じる力Fはこうなります。

\begin{aligned}
F
& =q_1E_2 \\[3mm]
& =k\frac{q_1q_2}{r^2} \quad [\text{N}]\\[5mm]
k
& =\frac{1}{4\pi\varepsilon_0} [\text{N} \cdot \text{m}^2/\text{C}^2]
\end{aligned}

\varepsilon_0は真空中の誘電率 dielectric constant/permittivity というもので、分極の度合いを表す量ですが、具体的な意味は今は気にしなくてOKです。この式ではEはエネルギーではなく電場の意味で置いています。物理学ではEはエネルギーの意味で使われることが多いです。電気と物理ではしばしば文字の置き方が違う場合があり、参考書を読んだり試験で文字を置くときの些細なストレスになります。

エネルギー保存則が成り立つときは、エネルギーUと力の間には次の関係があります。マイナスも忘れずに。

\begin{aligned}
& F=-\frac{\partial U}{\partial r} \quad[\text{N}]\\[3mm]
& U=-\int F{dr} \quad[\text{J}]\\[3mm]
\end{aligned}

なのでエネルギーはクーロン力を距離rで積分すれば求められます。

\begin{aligned}
U
&=-kq_1q_2\int\frac{1}{r^2}{dr} \\[3mm]
&=k\frac{q_1q_2}{r} \quad[\text{J}]\end{aligned}

ちょっと話は脱線しますが、電場Eと電圧[4](正確には電位)Vにもこんな関係があります。

E=-\text{grad}V=-\nabla V \quad[\text{V/m}]

電場は電位の勾配という意味です。一次元系ならこの式を使って

E=-\frac{\partial V}{\partial r}=-\frac{dV}{dr}\quad[\text{V/m}]

となるのでq_2による電位V_2はこうなります。

\begin{aligned}
V_2
& =-\int E_2{dr} \\[3mm]
& = -\int k\frac{q_2}{r^2}dr \\[3mm]
& =k\frac{q_2}{r} \quad [\text{V}]
\end{aligned}

この形はさっき求めたエネルギーの式の中にありましたね。つまり

\begin{aligned}
U
& =-q_1k\frac{q_2}{r}=q_1V_2 \\[3mm]
\therefore U
& =qV \quad[\text{J}]\\[3mm]
\end{aligned}

で無事エネルギーは電荷と電圧の積の形になることが証明できました。


今回の記事は以上になります。
本記事は量子の世界をより身近に感じてもらうために厳密さに欠ける内容も入っています。

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Terminology

Terminology
1 より正確には「光子」
2 長さ、質量、時間、エネルギーなど
3 どちらも同じ意味ですが物理学では電場、工学では電界といわれる傾向にあります
4 (正確には電位)

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